描きたいコト

日本各地、コトづくり旅

illustration&text:Amigos Koike

井戸端 茶の間 ヒメキンセンカ

「わたし、故郷の大船渡の力になる仕事をしたいんです」

東京・青山のカフェで働く若きスタッフSさんの力強い声。「大船渡には、元サッカー日本代表の小笠原満男さんたちがつくったサッカーグラウンドがあるよね」と言うと、「小笠原さん、わたしの高校の大先輩です!」と彼女。

「じゃあ大船渡行くしかないな!」

後日、「わたしの大船渡」が描かれたイラストマップが届く。「わたしの高校」「お気に入りの喫茶店」「美味しいカレー屋さん」「おじいちゃんの畑」「流されてしまった家のあった場所」。三陸の女子高校生のリアルな足取りが、鼻の奥をツンとさせる。

仙台より北へ

気仙沼経由で大船渡を目指す計画で、仙台から全線開通したばかりの三陸沿岸道路で北上。以前は果てしなく遠かったイメージだが、今や快適なドライブの範囲。美しい田園風景や高い空、穏やかな山並みや突然現れる海と、一瞬たりとも飽きることなく到着した、5年ぶりの港町。

気仙沼

迎えに来てくれたのは、天才すぎる塾講師、小野寺充太くん。地域の元気のため、人と人を穏やかに繋ぐことを、汗かきながらヒーヒーやっている姿が、好きなんだな~。さっそく気仙沼の今を巡るツアー開始。

気仙沼港のエースポート、復興祈念公園、気仙沼湾横断橋、BRT、気仙沼市東日本大震災遺構・伝承館、などなど。あらゆる人の考えが投下され、再生された風景は、被災の痛みを癒すものではないが、初めてここを訪れた人なら「美しき、人の暮らす港町」と思えるものだろう。

気仙沼の人々が愛する大谷海岸では、巨大防潮堤が「津波から地域を守るが、砂浜も海水浴場も生かす」姿でつくられ、この日の砂浜ではサンドアートのイベントが開催されていた。主催者で防潮堤の最適化に尽力した三浦友幸さんは、この海岸に紐づくあらゆる立場の人と情報の共有と対話を重ね、このデザインを導き出したと話してくれた。

あの日から10年。被災地と呼ばれる場所の発想は、東京より10年先の未来を走っているのだろう。「防潮堤に緑を植えたかった」と語る三浦さんの足元に、一輪のヒメキンセンカ。真冬にも咲くことのある強い花だという。この防潮堤に腰掛け、望む未来を語り形にしてゆくことが、復興というものであればいいな。

唐桑

この日の宿は太平洋に突き出た半島・唐桑の〝リアス唐桑ユースホステル〟。オーナーの三上さん、震災ボランティアからそのまま働いているサイちゃん、充太くんはじめワラワラと集う地域の人たち。唐桑半島の海の幸と地の酒、好き勝手を語る人々。ここはこの世で一番愉快な宿だろう。三上さんが海岸で救助したという布袋様を抱えて登場。ボクの意識は夢の中。ああ、ありがたや。

明けて早朝、唐桑をジョギング。道端のなんでもない花が美しい。唐桑の魅力は海やリアスで語られるだろうけど、ボクは道端の花を大切にしている人たちこそ、唐桑の魅力なんだと思っています。お昼は〝茶処プランタン〟。小山ノリちゃんご一家で営まれる「おうちカフェ」は、小山家の茶の間そのもの。唐桑の海産物と格闘したパスタや丼物、大発明の牡蠣バーガーを縁側でいただくこともできる、誰もが求める癒しがある場所です。過去に絵のワークショップをさせてもらって、この日は初めましての小山家3代目くんと絵を描いたり、ゲームをしたり。ボクはご一家の未来に出会いたくて、また唐桑を目指すのだ!

陸前高田 大船渡

旅は北へ。陸前高田の高田松原津波復興祈念公園を歩く。海と陸とを遮る防潮堤は巨大な献花台のよう。そこから見渡す被災エリアは広大で、自分のサイズでは受け止め切れないことばかり。しかし、静かな気持ちで祈る場所によって生かされるものはあるはず。気仙沼から旅をしてきた充太くんと大船渡で別れる。ひとりの友がいるだけで、被災や復興という言葉に血が通いだす。

Sさんの地図を頼りに歩く大船渡は、残念、お店がことごとく休みだった。しょうがない、三陸鉄道の駅で煎餅を買って歩く。複雑に入り組んだリアス式海岸には、港や道路、防潮堤建設の槌音。サッカーグラウンドも、新設された小学校も美しくて、大船渡の人々が未来に何を託しているのか、心に響いてくる。Sさんのご実家があったあたりから山道に入ると、木々の隙間から入江がキラキラ輝くのが見えた。大船渡は美しい。それは観光パンフレットの表紙を飾るようなものではなく、視線の端っこで絶えず感じる、人を優しく支えてくれている美しさ。復興は道半ばであるけれど、Sさんも足元にヒメキンセンカを見つけられるよう、帰ったら色々話してみよう。ならばアレも見ておこうと、さらに北へ。

宮古

岩手県宮古市には、三陸沿岸部のすべての町で失われた映画館を復活させようと、廃業した造り酒屋の蔵を利用して映画を上映する〝シネマ・デ・アエル〟。今年その運営グループが、酒蔵の庭に井戸を復活するクラウドファンディングを行い、完成の連絡をもらっていた。映画館に次いで人が集える場所としての井戸端の復活。面白いなあ。主催の有坂さんに「井戸を漕ぎにきたよ~」とボク。おっさん2人がゲラゲラ笑いながら井戸を漕ぐ。「色々問題はあるんですが、やはりメンバーや地域と対話と共有を続けてゆかねばならないんです」って。被災地と呼ばれる土地の井戸端でどんな未来が生まれるのか、楽しみだな〜。

小池アミイゴ/イラストレーター。 書籍や雑誌、広告等の仕事に加え、クラムボンのアートワークなど音楽家との仕事多数。日本各地を巡り、地方発信のムーブメントをサポート。より小さな場所で唄を手渡すようなLIVEイベントや絵のワークショップを重ねる。