伝えたいコト

伝えたいコト 語り継ぎたい、まかない飯

text:Yuka Yamaguchi
photo:Ryo Tsuchida

Vol.4 茨城/笠間いなり寿司

青森/八戸のせんべい汁

茨城県笠間市には一風変わったいなり寿司がある。甘く炊いた油揚げは口が開いていて、中にはくるみや蕎麦など変わり種の具材が詰まっており、ころんとした姿がかわいらしい。日本三大稲荷の笠間稲荷神社がある笠間では、古くからいなり寿司がお土産や軽食として参拝客に親しまれてきた。境内近くの蕎麦屋が遊び心で考えた「そばいなり」が評判になり、近くの寿司屋が神社の別名・胡桃下稲荷にちなんで「くるみいなり」を作った。この「変わりいなり寿司」は県外では見かけないそうで街おこしのきっかけに、と地元の飲食店や一般の市民も巻き込んで作り始めた。

今回取材した笠間いなり専門店「いなり工房ISAGO」では、一日に油揚げを1000枚炊く。11年前の開業当時から継ぎ足してきたタレには、黒糖や氷砂糖、甘酒など6種類の甘味が使われており、口に入れると複雑でコクのある甘さと醤油の香りが広がる。油揚げにしっかり甘さをつけている分、酢飯には酢と塩しか使わない。上の具もタコは青じそと酢に漬け込んだり、ホタテは椎茸の出汁と煮込んだりと細やかな手仕事が光る。

当初、笠間いなり寿司は観光客向けに売り出されたが、今では地元の人もお祝いの席などに食べるそうで、この日も大きな皿の盛り合わせが売れていった。みんな大好きないなり寿司にこんな可能性があったとは!

山口祐加/自炊する人を増やすために活動する料理家&食のライター/料理初心者に向けた対面レッスン「自炊レッスン」や、セミナー、執筆業、動画配信など幅広く活動中。