新たな乗り心地のCOPEN GR SPORT。
STANDARDグレード、
Sグレードとの違いとは。

モータージャーナリスト
日下部 保雄
Yasuo Kusakabe
自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを持ち、
新型車や自動車部品の
評価を始め幅広い領域をカバー。
日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
カメラマン:堤 晋一 記事提供:Car Watch
※車両画像は2019年11月時点のものです。

モータージャーナリストがプロの目線から
COPEN GR SPORTを語る。
今回は日下部保雄氏が、
COPEN GR SPORTの乗り心地をSTANDARD
グレードやSグレードと
比較しながら解説した。

ダイハツとTOYOTA GAZOO Racingの
メーカーの垣根を超えた交流の中で誕生。

     ダイハツはユーザーからの走りの要望に応えたい、トヨタはもっといいクルマづくりをしたいという両社の思いがあり、それが合致して今回COPEN GR SPORTが実現した。GRというネーミングが示しているように、ダイハツとトヨタの関係を強く意識するものだが、これはトヨタの販売店でもCOPEN GR SPORTが販売されるということからも伺い知ることができる。

     ライトウェイトスポーツのカテゴリーに属するCOPENだが、電動ハードトップのコンパクトなオープン2シーターはユニークな存在。COPENは女性にも人気があり、丸目ヘッドライトのCeroの人気も高い。

     「気楽にスポーツドライビングを楽しめるスポーツカー」を目指すCOPEN GR SPORTのエクステリアでは、ワイド&ローの水平基調のフロントグリルが特徴で、前後バンパーも他のGR系モデルと共通の角ばった形状になっている。また、内装でもGR SPORT専用メーター、ピアノブラック調センタークラスター、レカロシートなどのアイテムが備わっている。

     ボディ補強はフロントブレースとセンターブレースが主なポイントだが、ショックアブソーバーにはKYB製が組み込まれている。この点は後述する。

足下はGR SPORT専用のBBS製鍛造16インチアルミホイールにブリヂストン「POTENZA RE050A」(サイズは165/50R16)の組み合わせ。ショックアブソーバーはKYB製で、それに合わせてスプリングレートを最適化。路面の入力に対してしなやかに追従する足まわりに仕上げた。エンジンは他のCOPENシリーズから変更はなく、直列3気筒DOHC 0.66リッターターボ「KF」型エンジンを搭載。最高出力は47kW(64PS)/6400rpm、最大トルクは92Nm(9.4kgfm)/3200rpmを発生。

乗りやすいSTANDARDグレード。
サーキットで気持ち良く走れるSグレード。

     テストしたのはスパ西浦モーターパーク。ここはサーキットのようなハイグリップ舗装ではなく一般的な舗装で評価しやすく、天候もこの日は酷暑がぶり返した晴天だった。

     最初にSTANDARDグレードのCOPEN(MT)で走る。ルーフは閉じた状態だったので、オープン時に時おり感じるボディのブルブル感はない。操舵力も軽すぎず重すぎずで適度。ハンドルを切った時も過敏でない反応をする。ハンドルを切り増しするような場面でも素直な追従性を持っており、バランス感がよい。

     また、乗り心地の面でも路面の継ぎ目を通過した時もショックをよくいなしてくれ、路面のウネリに対してもスムーズだ。トランスミッションは前軸荷重の少ないMTだったが、タイトコーナーでもフロントの追従性がよく滑らかだ。とがったところはないが、乗りやすいのがSTANDARDグレードだった。ちなみにSTANDARDグレードではショーワのショックアブソーバーを使っている。

     続いてビルシュタインダンパーを使うSグレードのハンドルを握った。トランスミッションはCVTになる。こちらのセッティングはサーキットをより楽しく走れるようにチューニングされている。路面の荒れているところではショックアブソーバーのガス反発力が強く、突き上げが強い。その代わりに速度が上がるにつれて接地感が高くなり、路面をよくとらえてくれる。

     コーナーでのハンドルレスポンスも高く(EPSはSTANDARDグレードと同じ仕様のはずだが)、ハンドルを切るとスッとノーズが入っていくところはかなり性格を変えていると感じた。ロールが抑えられていることもあり、舵の効きも追い切りへの反応もよい。ちょっとゴロゴロした感じはあるが、サーキットで気持ちよく走れたのがSグレードだ。

そして、GR SPORTは…

     さて待望のGR SPORT。前述のようにCVTとMTの2機種に試乗できたが、いずれもルーフトップは閉じたままの走行だった。タイヤはすべて共通のブリヂストン「POTENZA RE050A」(サイズは165/50R16)。最初に感じたのは、ピットロードの路面ギャップを通過する際にしなやかにアシが動くことで、突き上げ感は小さい。Sグレードとは対照的なマイルドな動きはSTANDARDグレードに近い。

     コーナーではGR SPORTの特徴がよく表れる。ステアリングレスポンスに優れているが、それだけでなくボディ後半部との一体感のある動きには感心した。他のグレードは、極端な言い方をすればハンドルを切るとまず前が動いて、遅れて後ろが追従するようなイメージだったが、GR SPORTでは前後一体となった動きで、すっきりした感触だ。ロールは抑えられているが、押さえつけるようなものではなく、自然なロール感を伴う。

     乗り心地を含めた走りの部分では、KYB製複筒式ショックアブソーバーの味がよく出ている。フロントは低フリクション仕様、リヤは現状のリファイン品で、スプリングはSグレードに比べて前後とも下げられ、ショックアブソーバーの減衰力や特性に合わせられている。

     GR SPORTの一体感はボディ補強の効果が大きい。とはいうものの、レーシングカーのようにガチガチに補強されているわけではなく、COPENの特性を出すように追加のボディパーツを入れている。

     フロントブレースは、エンジンルーム下部に入った横バーから車体剛性を司るXブレースをつないだもので、前後剛性を上げることでステアリングレスポンスを向上させている。さらにXブレースの後半部に入れられたセンターブレースと、そこから後方に伸びるリヤブレースの形状変更で旋回時の引っ張り剛性が上げられている。このパーツがGR SPORTの一体感に大きく貢献している。また、フロントストラットタワー部の溶接スポットの位置を変更することで、コーナリング時の余分な動きを抑制することができたという。

     一方、空力に関してはトヨタの知見が生かされている。バンパー形状を変更したことでボディに粘りつく空気の流れを整流し、さらにフロントグリルから入った空気の流れをフロントフェンダーのインナーライナーから吐き出すことでフロントの接地感にも効果を上げている。

     もう1つ大きいのは、床下にスパッツを装着することでリヤの揚力係数が向上していること。空力は微妙な変更で特性が変わる繊細なものだが、デザインだけでなく、これらの空力パーツでCOPENの安定性は大きく変わった。

 GR SPORTはSTANDARDグレードともSグレードとも違う方向付けで、低速域から高速域までの乗り心地を含め、またウネリの大きなワインディングロードでもハンドリングが楽しめるコンパクトスポーツになっていた。

 今回、COPENのラインアップにGR SPORTが追加されることで、これまでのCOPENにはない新たな乗り味が加わる。走りの幅が広がることで、また新しいユーザーからも注目を浴びることになろう。COPEN GR SPORTの意義は大きく、今後につながる大きな一歩になる。
※”TOYOTA GAZOO Racing”はトヨタ自動車株式会社の商標です。
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